新卒、辞めた。早期離職からのリベンジ就活!【就職に有利な資格は ズバリ◯◯◯!】
2020年04月01日
『地方創生』という言葉を耳にしたことはあるでしょうか。第二次安倍政権で掲げられた政策のひとつで、東京一極集中や地方の過疎化を防ぐことを目的としています。
明るい未来!せっかく働くなら都内の大手優良企業で!そのように志が高いことも必要かもしれません。
でも、その働き方は本当にあなたに合っているのでしょうか?
満員電車に揺られ、多くの人と出会っているのに深い繋がりは持てないことも多い都会。
確かに、働きやすい職場だってたくさんあります。映画館や居酒屋、遊園地など、遊ぶ場所には困りません。ただ、働き方の選択肢として地方にも目を向けてもいいのかも。選ぶ道により、どんなメリット・デメリットがあるのでしょうか?3人のパターンを見ていきます。
1.小平浩太の場合
2.前田とも子の場合
3.大澤裕美の場合
4.まとめ
【学年】大学3年2月
【種類】Uターン就活
【目的】地域の過疎化阻止に役立ちたい
「ありがとうございましたー!」
店内から叫ぶ声を背中に受けて、浩太は後ろ手にドアを閉める。一歩外に出ると、今まで酒で火照っていた身体が嘘のように凍え、身じろぎする。「お、都会もんはひ弱だな」
1番酔っている体格の大きな竜が、文字通り「がはは」と豪快に笑った。釣られて、周りの数人が笑い声を上げる。こんな空気を肌で感じると、地元で同じ時を過ごした中学生の頃に一瞬で引き戻される。
「もー、竜くん飲みすぎ!すみません。早く乗って」
店の前に停まっていた車のウィンドウが下がり、中から可愛らしい女の子の鋭い一言が飛ぶ。呼ばれた竜が転がるように乗り込むと、車はあっという間に発進した。
大学のある都会で飲んでいると、このまま2軒目に梯子するが、車社会の地元はみんなが当たり前のように迎えの車に乗り込んでいく。数歩足を動かすだけで、スニーカーの中に雪解け水がしみ込んでくる。隣の家まで数十メートルもあるような田舎の居酒屋で、久しぶりに仲間とはしゃいだ割には、どこか酔いは冷めていた。足は冷たくなる一方だし、親を呼ぼうと携帯を取り出した時だった。
「浩太!足がないんでしょ?乗って行きなよ」
「おぉ、いいの?ラッキー」
声を掛けてきたのは、中学時代には言い合いばかりしていた女子だ。
「竜は、あんなでも警察官になって3年なんて、な」
迎えに来た彼女との結婚も考えているようだ。勉強はもちろん、憧れも合いまって都会に出た分、随分と同級生に先を越されている感が否めなかった。
「結局、ここに残っているのは何人もいないでしょ。みんな都会に出ちゃったから。今年の夏まつり、若者の姿がなくてさ」
「俺、こっちで就職しようと思っているよ。身内もいるしさ」
暗い田舎道に、車のライトだけがまっすぐ光る。横で、彼女が驚いたように目を見張っている。
「おい!前見ろ、前!」
一瞬道をはずれかけた車が、軌道修正する。彼女が大きく驚くほど、地元に戻る仲間は少ないのだ。採用枠が少ないことも大きな理由だろう。
「楽しみにしているよ。祭りで神輿の担ぎ手がひとり増えたわ」
そう言う彼女に笑い返しながら、浩太は頭の中で、目星を付けた企業をいくつか思い浮かべていた。
【学年】大学4年4月
【種類】Iターン就活
【目的】ストレスフリーの人生を送る
「それでは、Iターンの目的を教えてください」
とも子の視線の先に座る面接官役の女性が聞いてくる。面接とは言え、大学が練習用に用意した企画に参加しただけで、特別の緊張感はない。それに、会話を成り立たせるコミュニケーション力には自信があった。
「都心で生まれ育った私にとって、穏やかな雰囲気の田舎に憧れるからです。以前、旅行で訪れたのですが、みなさんとても優しかったです」
とも子が答えると、面接官は苦笑いを返した。
「本当の心は?」
根っからのお調子者は、とも子の短所だ。
「都内よりも、地方の方が人は少ないから受かりやすいかなと。それに通勤ラッシュもないだろうと思いました。時間がのんびり流れていそうで、ストレスなさそうですし」
年配の女性は、とも子の反応が意外だったのか、思わず噴き出している。隣に同じく就活生として並んで座る女子たちもクスクス笑い始めた。
「あのね、正直なことはいいけれど、すべて胸の内をさらすのが正解ではないよ。あなた、Iターンでどんな業種を受けようとしているの」
「実は、企業のホームページを見たりしているんですが情報が少なくて。特に親戚がいるわけでもないので」
「確かに、選考を受けられる企業は決まってしまうかもね。じゃあ、地方で就職や生活をした人向けにある『移住促進センター』を利用してみたらいいんじゃない」
「なるほど」
足元に置いた鞄からメモ帳を取り出し、彼女の言葉を書きとる。
「地方は採用規模も小さいし、情報量も少ないと思うの。確かに都内より人はいないけれど、それだけ人気企業に人が集中する。安易に考えないことね」
厳しい一言に、ハッとする。
志望動機さえ、「田舎に憧れるから」としか答えられなかった自分に顔から火が出そうな恥ずかしさを覚えた。隣の女子に移った質問は、とも子の耳にはもう届かなかった。
【学年】大学3年春休み
【種類】上京就職
【目的】キラキラOLを目指す
数日分の着替えやリクルートスーツ、最低限の化粧品。面接対応本や余裕を持った金額が入った長財布。思った以上の重さになったボストンバッグを駅のベンチに置いた。ところどころペンキのはがれたベンチに腰掛け、単線の線路わきに咲く桜を見上げた。
幼いころから、この町を離れたことはない。まだ、決意が固まったわけでもない。
と、ポケットで携帯が振動する。
「もしもし、裕美ちゃん。大学に行った後に、今日の夜行バスで行くんだっけ」
母は、いつまで経っても子どものスケジュールを把握したがる。その鬱陶しさはこの4年間で年々強くなった。
「お金は足りるの?どこに泊まるの」
「ちゃんと予約してあるから大丈夫だって。今週末にはゼミもあるから帰って来るし」
「週末って、ちょっと裕美ちゃん」
まだ聞きたがる母の言葉を遮るように電話を切った。
鬱蒼とした森の中へ続く線路から、早く電車が来ないかと目を凝らす。
1時間に2本しか電車の走らない田舎。東京までは新幹線で数時間。
大学を卒業したら、自分は大人だ。遊びたい場所が夜まで閉まることもない、可愛い服が好きなだけ買える都会を想像した。
鞄からスケジュール帳を取り出し、膝の上でめくる。行きたい会社の説明会と面接の日程、大学のゼミ、バイトの勤務日などを違うマークで印づけていく。そして、付録として一番後ろについている東京沿線の地下鉄の地図を食い入るように見つめた。緊張する。
「1番線、電車がまいります。白線の内側までお下がりください」
ホームに響くアナウンスに腰を上げる。
これから内定をもらえるまで、何度地元と東京の往復をすることになるだろう。戦いは長くなるかもしれない。でも、絶対に乗り越えて見せる。
裕美は覚悟を決めたかのようにバックを掴むと、ホームに滑り込んだ電車にしっかりとした足取りで乗り込んだ。
さて、いかがだったでしょうか。3人はそれぞれの目的をもって、それぞれの場所で就職しようと戦い始めました。Uターン、Iターン、上京と環境を変えての就職活動で気を付けることが読み取れましたか?
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書いた人:しごとの道しるべ ライター 松元 千春
週4の事務仕事で生計を立てつつ、ライター業で道楽する破天荒型。千葉市に住みながら、千葉県中房総を中心に発行する地域情報紙で、イベント記事やインタビュー記事を制作。著書はサスペンスホラー小説や電子書籍数点。常に分厚い単行本を持ち歩いては友人に驚かれる傾向あり。モットー『笑いは細胞を活性化させる』