【Short Stories】インターンシップって誰のためにあるの?それぞれの物語

就職活動を始める時、『会社説明会』と同じくらいによく耳にする単語は『インターンシップ』ではないでしょうか。

インターンシップが日本の会社で取り入れるようになってから20年ほど経ちますが、きっかけは当時の政府が『学生が在学中に自らの専攻、将来のキャリアに関連した就業体験を行う』ことを促したからです。バブル崩壊や職業観のミスマッチで早期退職が増加した故の対策でしたが、実際に体験してスキルを身につけるという本質は、年々どの業界でも重視されるようになっています。

では、気になるインターンシップのメリットを見ていきましょう。

1  菅原将太の場合
2  榊原雅彦の場合
3  園田美穂の場合
4  まとめ

1 菅原将太の場合

【学年】大学3年
【専攻】経営学部経済学科
【希望職種】大手メガバンク、保険会社関連

「この部分、もうちょっと詳しくデータを出せない?第三者が見た時にどう感じる?」

「そうですね、修正します」

「お、もう5時だから上がっていいぞ。また明日やればいい」

静かなオフィスではブースごとにパソコンに向かう社員達の、キーボードを打つ音が響く。

「お疲れ様です」

周囲に声を掛け、素早く席を後にした。冷房の効いたオフィスを出て、すぐに地下鉄に乗り込む。仕事を終え汗ばむサラリーマン達で、すでに電車は混み始めていた。運よく見つけた端の空席に滑り込むと、鞄からSPIの問題集を出す。数駅揺られていると、心地良くて瞼が重くなってくる。その時だった。

「なに、菅原じゃん」

急に呼ばれた名前に、はっと我に返る。見上げると、そこにスーツ姿の友達の姿があった。

「なに、お前。まさかバイト帰り?俺も夏休みはバイトばっかりだけど、今日は1日だけインターンシップ。マジ、だるい」

確かコイツも、同じメガバンク志望だったはずだ。私服の自分が1ヶ月のインターンシップに参加していると、わざわざ教える気にもならなかった。志望業界ではないIT関連の会社に通うことになったのは気まぐれに近かった。だが半月以上通い続け、今では働くことへの抵抗感より充実感を得られるようになった。

「とはいえ、午後からの説明会だけね。実際業界研究なんてよく分からねぇし。やっぱ安定のメガが良いっしょ。問題はグループ面接かな。俺、苦手なんだよねー」

眠気が治まらない中、コイツは勝手によくしゃべる。偶然見つけて応募し、数回の審査を通った後、意外と選考倍率が高かったことを知った時は少し嬉しかった。仕事では学生だからと甘い顔はされず、書類は何度も厳しく指摘されるが、目から鱗の視点がこれからの活動で勉強になるのは間違いない。
奴の声がいつまでも耳に届く中、さっき指摘された書類の改善方法を思い浮かべながら、また静かに目を閉じた。

2 榊原雅彦の場合

【学年】大学院1年
【専攻】工学部生物系学科
【希望職種】医療、製薬業界

「お待たせしました」

机の上に資料を広げていると、注文から数分も経たないうちに店員がパスタセットを持って現れた。テーブルから番号札を取り、思いのほか無造作に置いて颯爽と去っていく。空腹が味覚と嗅覚によって満たされていくと、ふと脳裏に浮かんだのは、彼女との朝の会話だった。

「もう嫌だ。あと3日もあるなんて。辞めたい。行きたくないな」

お互い一人暮らしをしていると、大体週の半分くらいかはどちらかの家に泊まっている。彼女は大学3年生で、同じタイミングでの就職活動は刺激し合えるとプラスに受け止めていた。しかし、起きがけに愚痴を吐く彼女に少し苛立った。

「インターンシップしたいって自分で思ったんだろう? しかも、ずっと行きたかった業界だろ。ちょっと嫌な部分を見たからって、1週間も我慢できないなら働けないじゃん」

「もう、そういう正論が聞きたいわけじゃないって、いつも言っているよね」

論点がすり替わりそうだったので、慌てて準備をして、先に家を出た。振り返って声くらいかければ良かったと、後悔を飲み込むように、グラスの水を喉に押し込んだ。

「ねぇ、さっきの説明会にいたよね。俺、実は後ろの席だったんだ。ここ、いい?」

顔をあげると、同じく新品と思えるスーツを着た男。店は昼時で混雑し始めた。頷きながら、慌ててテーブルの端に寄せていた紙を片付ける。

「ありがと。1日だけのインターンシップも参考になるね。感触が良い人向けに長期での募集をかけるって。どう?俺、院生で研究も忙しいんだけど応募してみようと思うんだ」

席に座るなり、男が言う。正直に話すか若干迷いながらも、一期一会かもしれないからこそはっきり口にしてみる。

「俺も同じだ。両立心配だよな。でも、俺は今日色々聞いたからこそ、なんか違うかなと思ったよ。専門を生かせる憧れの業界ではあるけど、違う業界のインターンシップに参加してみるよ」

ポテトを掴んでいた男が一瞬目を見張るも、すぐに笑って小刻みに頷いた。それぞれに時間の制限は出てくるが、説明会、そして面接がスタートしていく前に最大限の挑戦をするのも悪くない。男との会話も弾み、食事を食べ終える頃、携帯が小さくポケットで振動する。見ると、メールが届いている。

『朝はごめん。ちゃんと会社来た。ひとつ褒められた。私、さすが』

彼女なりに精いっぱい謝っているつもりなのだろうと、吹きだしそうになる。家に帰ったら話してみよう。色んな業界、そして就職活動の様々な方法について。そして、なにより彼女を大切に想っているということを。

3 園田美穂の場合

【年齢】27歳
【業界】IT
【インターンシップ経験】なし

「率直に、お前はどれがいいと思った?」

梅雨の湿気でべたつく肌を片手で仰いでいると、左隣の席から上司が声をかけてくる。入社した頃はこんなことなかったのに、仕事に慣れるにつれて、意見を求められるようになったと実感する。

「眼鏡の男の子、鋭い意見をいいながらも周りの反応をよく見ていたと思いますよ」

さっきまで行っていた、サマーインターンシップのための面接だ。

就職活動の前にも、面接を何度もするなんて嫌だったため、美穂は経験がない。運よく、自分の性格に合った会社に入れたので後悔はないが、なぜ当時興味を持たなかったのか今では不思議だ。業界研究は充分な時間が持てずに浅い知識のまま、極度に緊張する面接も少なくなく、就職活動は決してスムーズではなかった。

「ふーん」

上司の反応で、自分と意見が同じだったのだろうと確信する。

「ちょっと言葉遣いが、アレだったけど。まぁ社会人の自覚なんて、今あるわけがない。結構IT第一志望だったみたいだしな」

「そうですよ。意外と実際の応募者って少ないですからね。人材確保お願いしますよ」

給与だけを見て入ってきた数人は、あっという間に退職していった。今担当している人事も、元は自分の仕事ではない。違う業界の友達との会話でも、人が足りないと常に話題になるのはなぜなのだろう。

「よし。今年からは、インターンに所内見学も入れているんだ。終わったらホームページに載せるから、カメラ忘れるな。お前、写真得意だったよな」

「え、変でも絶対責めないでくださいよね」

2人の会話を聞いていた周囲から、笑いが漏れる。
こんな雰囲気が、新しく仲間になるかもしれない彼らに少しでも伝わればいいと願いながら、園田は眼鏡の彼の履歴書を手に立ち上がった。

4 まとめ

さて、3人の行動はいかがだったでしょうか。

インターンシップの大きなメリットは、業界研究を実際に体験して知れることです。
特に、①菅原くんのように希望以外の業種に恐れず挑戦することで、意外な視野が広がるかもしれません。そして、就職活動では欠かせない面接をして慣れることもできますし、②榊原くんのように、憧れの業界だったけれど「違うな…」と肌で感じることで、より自分に合った業界や会社を探す機会に繋がります。

とはいえ、榊原くんの彼女のように、嫌な面を見てもその業界でやっていく決意を持つことは、強みにもなるでしょう。ただ、インターンシップは先に説明したように、会社側へのメリットも多くあるんです。「思っていたのと違った」という悲しい退職理由を防ぐことはもちろん、③園田さんが写真を撮ることを命じられたように、社会貢献をしているとPRもできるんですね。

実施時期や期間、体験内容は業界や会社によってそれぞれです。準備は早目で損をすることナシ!まずは詳細のサイトをチェックしてみましょう。

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書いた人:しごとの道しるべ ライター 松元 千春
週4の事務仕事で生計を立てつつ、ライター業で道楽する破天荒型。千葉市に住みながら、千葉県中房総を中心に発行する地域情報紙で、イベント記事やインタビュー記事を制作。著書はサスペンスホラー小説や電子書籍数点。常に分厚い単行本を持ち歩いては友人に驚かれる傾向あり。モットー『笑いは細胞を活性化させる』

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