【インタビュー】乃村工藝社のデザイナーにきく! クライアントの想いや魅力をデザインにする仕事~デザインの種をつくりたい~≪後編≫

前回の中編は、乃村工藝社後のOJT期間の体験や、そこから得た気づきを基に、チームでコンペに臨んだ経緯について伺いました。(中編はコチラ)
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今回は、仕事で意識していることや今後の目標についてお話を伺います。

看板は牛の鼻のスタンプ?!

古庄:最近手がけたデザインで思い出深いものがあれば、教えてください!

萩谷さん:それぞれ思い入れがあって選ぶのは難しいですね…。
ただ、今までに手がけた仕事でも、ユニークな仕上がりになったものはこちらです。

古庄:おぉ!

萩谷さん:これは、「鼻紋」(びもん)と呼ばれる牛の鼻のスタンプです(笑)。

古庄:思わず息を飲んでしまいました!

萩谷さん:この時は、関西をメインに展開されている焼肉店「焼肉ホルモン ブンゴ」の、ワンランク上をいく新たなブランドをつくりたいとお話をいただきました。
先ほどの「鼻紋」は、和牛の血統証明書に押される大切な証です。人間でいう指紋のようなものですね。
この「鼻紋」をシンボルのモチーフとし、ブランドとしてのこだわりや品質の高さを表現しました。それに、この時のオーナー様がユーモアをとても大切にされる方だったので、そういった精神もデザインに込めたかったのです。


提案資料の一部

古庄:他にもいくつか案があったんですか?

萩谷さん:はい。他にも様々な切り口の案がありましたが、この「鼻紋」のデザイン案をお見せした瞬間に、「牛の鼻や!これ面白いな!」と即決していただきました。

古庄:確かにインパクトはすごいです(笑)。なかなか思いつかない気がします…。どのようにデザインを作っていくんですか?

萩谷さん:実は、全くの0からデザインを考えているわけではないんです。
まずは、デザインに着手する前にはクライアントにヒアリングを行います。
この対話を通じて、クライアントの想いや、価値観、大切なキーワードを掘り下げ、まずはしっかりと受け止めることを心がけています。その上で、場やブランドの世界を構築するにあたっての本質を見極め、表現していくというイメージですね。

古庄:なるほど!このデザインにもそれが現れているんですね。

萩谷さん:そうですね、そのつもりです。
初見では少しギョッとするけれども、おもてなしの中でデザインに込められた意味を徐々に紐解いていくことで、洒落の効いた粋なブランドの世界観を体感いただけるよう、ゲストへのオペレーションも含めご提案しました。こういった仕掛けは、ユーモアを大切にする価値観とリンクするところです。
ちなみに、鼻紋のマークの中に “ブンゴ” の隠れ文字を潜ませています。そういった細かな遊び心も感じてもらえたら嬉しいですね。


和牛料亭 bungo
築110年以上の京町家が並ぶ路地一帯を改築した「Nazuna 京都 椿通」内に佇む和牛料亭。”おおいた和牛”をはじめとした全国の様々な和牛から、日本四季を感じさせる品まで愉しむことができる。

「デザインの種」をつくるような仕事がしたい

古庄:萩谷さんにとって、この仕事の魅力とはどんなことでしょう?

萩谷さん:本当に、仕事が楽しいことです。
あとは、いろいろな業界の方と出会う機会が多いことも魅力です。デザインを生み出すためには、相手のことを理解する必要があります。クライアントについても、その業界についても深く知ろうとします。
仕事を通して、自分の価値観以外にもいろんな考え方があることを体感します。その気付きは、自分の人生をより豊かなものにしてくれますね。

古庄:ありがとうございます!萩谷さんの人柄が現れる回答ですね。
では、デザイナーをするにあたって大切にしていることはありますか?

萩谷さん:まずは、やはりお客様の想いを理解する姿勢が大切かなと思います。
あとは、ポジティブな目線も意識して持つように心がけています。実際にクライアントと対話をしていると、ご自身が自覚されている以外の部分にも魅力を発見できたりします。
時にはそういった部分も拾い上げ、そのブランドならではの新しい世界を表現することが私の仕事だと思っています。

古庄:技術的な面で大切にしているところもお聞かせいただけますか?

萩谷さん:うーん、技術的なことで言うならば、いろんなものを見て、試行錯誤しながら手を動かすことが、やはり上達の近道なのかなと思います。
あとは、日頃から「日常の風景の中にも、面白い発見がある」と思って過ごしていますね。例えば、目の前の何気ない風景の色合いであるとか、この植物の形きれいだな、とかそんな些細なことで良いと思います。
日々のちょっとした感動を蓄積していると、アイデアを練っているときに思いがけない発想に繋がったりします。

古庄:今後、目指す目標などはありますか?

萩谷さん:大きく2つあります。
1つ目は、ブランドの想いという目に見えないものを、様々なカタチとして具体化していく上で、最初の足掛かりとなる「デザインの種」をつくるような仕事をしていきたい、ということ。私の手掛けたデザインが、空間デザインをはじめ様々な媒体と結びついて育っていくことで、ブランドの世界がさらに豊かに広がっていけばいいな、と日々妄想しながら仕事をしています。

古庄:ありがとうございます。もう1つもぜひ教えてください。

萩谷さん:新しいことを始めるときってワクワクしますよね?そういう気持ちのときに思い出してもらえる存在になりたいと思います。

古庄:ワクワクするときに思い出すとは…?

萩谷さん:ある時、以前一緒にお仕事をさせていただいた社外の方から、お電話をいただいて。「今度新たにチャレンジしたいことがあるのだけど、そしたら、前に一生懸命にデザインしてくれたあなたのことが頭に浮かんだよ」と。ワクワクするようなお仕事へお声掛けをいただいたんです。この時は、うれしかったですね。
その頃から、“何だか楽しいことになりそうだ”と、ときめいている瞬間に、思い出してもらえる存在になりたいと考えるようになりました。

古庄:それは、本当に嬉しい瞬間ですね。

学生の方々へ

古庄:最後に学生に対して一言いただけませんか。

萩谷さん:そうですね、まずは自分が何をしたいのか考え続けることが大切なのかなと思います。就活だけではなく、就職した後も自分が何をしたいか模索し続けることで、道が拓けてきたように思います。
あとは、それを人に伝えること。自分がやりたいこと、考えていることを、勇気を出して人に伝えることで、状況が良い方向に変わるかもしれません。

古庄:今までお話を思い返しても、説得力がありますね。

萩谷さん:とはいえ、私もまだまだ道半ば、模索している最中なので。
これからも、引き続き精進していきます!

古庄:たくさんのアドバイスをありがとうございました。

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学生の方々へのアドバイスをいただこうと思っていたら、社会人の私にも深く刺さるお話を聞かせていただきました。

鼻紋のロゴマーク、ユニークで、印象的でしたね!私たちが日頃過ごしている街の至るところにも、想いの溢れるデザインが隠されているのかもしれません。たまには、そういった視点で過ごしてみると、何か気づきがあって面白いかもしれませんね。

また、今回の取材をするにあたって、お忙しいなか、萩谷さんやIVDチームの方々に多くのご準備やご提案をいただきました。そのお人柄がデザインに現れて、誰かを惹きつけるのか…と、私自身とても学びになりました。ご協力くださり、本当にありがとうございました。

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