【インタビュー】乃村工藝社のデザイナーにきく!入社しても、自分の方向性を模索し続けた日々~チームの力で達成したコンペ~≪中編≫

▲写真:Times CAFÉ

前回、乃村工藝社の入社に至るまでのきっかけを含めて就職活動の全般を伺いました。(前編はこちら)
今回は、入社後から現在に至るまでのお話を伺います。

入社してみたら、なんとグラフィックデザインチームに配属!?

古庄:今回は、入社後の話を主に伺いたいと思います。まず、入社すると研修からスタートでしょうか?

萩谷さん:はい。私のときは、会社ルール等基本的な研修→配属→現場経験といった流れでした。
入社してすぐに、社会人としてのマナーや会社のルール等の基礎的なことを学ぶ研修が1~2ヶ月ありました。その研修後に配属の発表があったのですが…。

古庄:はい。

萩谷さん:辞令を受け取った時、配属先を見て驚きました。なんと、グラフィックデザインの専門チームに配属だったんです。
もともと、ブランディングを基にして空間と融合したグラフィックデザインをしたくて入社しましたが、それでも最初は空間デザイナーとして働くものだと思っていたので。まさか初めからやりたい分野に携われるなんて…。

古庄:えぇ!それは嬉しい驚きですね!!

萩谷さん:実は後々にわかったのですが、この配属も偶然が重なって起きたラッキーだったんです。

古庄:偶然ですか?

萩谷さん:ちょうど、私が入社した年からIVD -Integrated Visual Design-というグラフィック・ビジュアルデザインの専門チームが発足して。入社前はそういったチームができることも知りませんでした。私ってなんてラッキーなんだ!!と思いましたね。

古庄:なるほど!就活で自分の希望を伝えたことによって、偶然にもそうなったと…。

萩谷さん:はい、辞令を受け取って、ドキドキしながら、3ヶ月ほど制作の現場経験をさせていただきました。

古庄:興奮や不安を抱えながら、現場に行かれたんですね。現場経験では、実際にどんなことを経験されたんですか?

萩谷さん:設計図に描かれたものが実際に出来上がっていく様子を見て学びました。あとは、朝礼の挨拶からはじまり、材料の発注とか、品質のチェック、職人さんとのコミュニケーション、掃除などなど…あらゆることを経験しました。
今思い返すと、研修で制作現場を経験したことで、工事の状況のイメージがつきやすかったりなど、現在の業務の中で役立つ場面は多々ありますね。

いざ、デザインの仕事が始まる…

古庄:では、研修をひと通り終えて、配属であったグラフィックチームに行かれたと思うのですが、初めての仕事で経験されたことや、思い入れなどあればお聞かせください。

萩谷さん:初めてのお仕事は、あるキャラクター作品の展示企画・構成とビジュアルデザインの補佐でした。初めての仕事といっても、この案件には、2年弱ほど携わりました。

古庄:2年弱も!実際に働き始めてから、入社前の想像とのギャップはありましたか?

萩谷さん:はい、会社としても比較的大きなプロジェクトに途中からOJTとして参加させていただきました。
やはり、入社当初は覚えることも多く、案件自体にも途中から参加させていただいたこともあり、題材となる作品についての理解を深める必要もある。
毎日とにかく必死でキャラクターたちと向き合いながら、仕事に励む日々でした。

※注釈
OJT :On the Job Trainingの略で、上司や先輩が、部下や後輩に対して、実際の仕事を通じて指導し、知識、技術などを身に付けさせる教育方法。

古庄:寝る間も惜しんで…という感じですか?

萩谷さん:うーん(笑)。入社前から、忙しい業種だということは覚悟をしていたので、入社前とのギャップと感じることはありませんでした。

古庄:そうだったんですね。

萩谷さん:このいわゆるOJTのタイミングでこの案件に携われたことも幸運でした。
ベテランの先輩たちのサポートを受けながらたくさん学べましたし、今振り返ると、この時期があって本当に良かったと感じています。

古庄:というと?

萩谷さん:初めて携わった案件だったにも関わらず、打ち合わせにも積極的に連れて行ってもらったり、リサーチから企画・デザイン・引き渡しまでひと通りのことに携わるなど、幅広い経験を積むことができました。
そして、何より、この仕事を通して、今後、自分のやりたいことの方向性について、さらに明確化することができました。

古庄:おお!詳しく教えてください!

萩谷さん:例えば、キャラクター作品など、元からある世界観を膨らませてあらゆる媒体にデザイン展開していくことを、1→100のデザインとします。
一方で私がしたいことは、0→1のデザインをするような仕事だと改めて気がつきました。

古庄:元からあるイメージをデザインによってさらに広げていくよりも、全く新しいデザインを作りたいと?

萩谷さん:はい、場やブランドの在り方を、クライアントと一緒に0から考えて、新しい世界観を構築したいと。
今振り返っても、この考えが明確になったことが、この期間の最も大きい収穫でした!

いよいよ1人のデザイナーとしてコンペに挑む!

古庄:深い学びのあったOJT期間の、その後についてお伺いしていきたいと思います。

萩谷さん:実は、前のキャラクター関連の案件が落ち着くタイミングで、所属するチームの上長に “0→1のデザインがしたい”ということを素直にお伝えしました。

古庄:そうだったんですね。なかなか勇気の必要な行動とも思えますが、どうだったんでしょうか?

萩谷さん:そんな話をさせていただいたら、ある時、“カフェのコンペがあるけど、やってみない?”と上長からお声をかけていただいたんです。
2年目でこんなチャンスをいただけるなんて、上長の懐の深さが心に染みます…。

古庄:いきなり、コンペですか?!

萩谷さん:はい(笑)。この時は、時間貸駐車場の「Times」を運営するパーク24様の新たな情報発信拠点となる、カフェスペースのコンペでした。
提案として求められていたのは空間のデザインだったのですが、社内で話をする中で、新しく誕生するカフェの象徴となるようなVIデザインからつくろう、という話になりました。そこで、ブランディングの考え方から、VIデザイン、空間デザイン、ツールデザインに至るまで、プロジェクトメンバーと力を合わせて幅広くご提案しました。そしたらとても気に入っていただけて、採用が決まったんです。

※注釈
・VIデザイン:ロゴマークやブランドカラー等を設定することで、ブランドの持つ想いや個性・魅力を目に見える形で表現し、人々に伝えるためのもの。


Times CAFÉ
時間貸駐車場の「Times」を運営するパーク24株式会社のグループ本社ビルに、2019年に誕生。新しい価値の創造・情報発信拠点として、地域に開かれた憩いの場となっている。

古庄:サラッとおっしゃいましたが、素晴らしいです!おめでとうございます!
実はお話を伺って、私もこのカフェに行ってきましたが、不思議な形のオブジェが印象的で、全体的に落ち着いてリラックスできるように感じました。

萩谷さん:ありがとうございます!実はこの不思議な形、Timesの旧ロゴマークからインスピレーションを受けています。
幼い頃から、Timesのあの看板を見かける度に、ロゴマークの中にひっそりと浮かぶシルエットを「黄色いクルマかな?」と見つめていて。そんな個人的な記憶から、この形をカフェのシンボルにしようとひらめきました。
このロゴマークは、見る人によっては食べ物に見えたり、色づいた山に見えたり、いろんな捉え方ができますよね。そのことから、ドライブの途中で出会う様々な体験へと想像が広がっていく様子を表現しました。
ちなみにうちの社内メンバーは、この形のことを「たらこ」と呼び合っていました(笑)。

萩谷さん:実は、空間内の至るところにロゴマークの面影を踏襲しています。床の貼り分けや什器にも、ロゴマークの柔らかな曲線をさりげなく取り入れていたり。
あと、店内のアートワークも手描きで描かせていただきました。よく見ると、どの絵にも黄色いクルマが隠れているんです。

古庄:ところどころに遊び心が見られるのも魅力的ですね。

自分の居場所だと感じられるチーム IVD -Integrated visual Design-

IVD公式Instagramアカウント:https://www.instagram.com/ivd_official

古庄:先ほど、このTimes CAFÉに携われたのもチームの上長の後押しがあったからこそと伺いました。萩谷さんの所属するIVDとはどのようなチームなのでしょうか?

萩谷さん: “Integrated Visual Design” の頭文字からなるIVDは、“空間デザインと融合して、新しい価値を生み出すグラフィックデザインを行うこと”を目指して誕生したチームです。

古庄:もう少し具体的に伺ってもよろしいですか?

萩谷さん:クライアントとの対話をもとに、グラフィック・ビジュアルデザインによるブランドの世界観を構築し、空間デザインやweb・広報、パッケージなど、様々な媒体に一貫したデザインを落とし込みます。そうすることで、「どの視点から見てもそのブランドらしさがある」ということを目指しています。

古庄:なるほど!先ほどの例にあったTimes CAFÉもそのように構成されていますよね?

萩谷さん:はい。実はディスプレイ業界では、空間のデザインが先行し、後付けでロゴマークを作ることが良くあるようなのですが、このTimes CAFÉの場合は、カフェの象徴となる黄色いクルマのシンボルを創り出し、さらにそのブランドの世界観に紐づける形で空間がつくられるという、業界内では少し珍しい事例になったと思います。

古庄:新しい試みを持つチームなんですね。

萩谷さん: 6年目の新しいチームということもあり、IVDの想いを社内でも浸透させているところです。場づくりの手法の1つとしても、私たちIVDの考え方をさらに発信していけたらと考えています。
だからこそ、チームで「空間デザイン会社の中にあるグラフィックデザインチーム」ならではの強みについて改めて考えますし、グラフィックデザインを通してより良いものを作っていこう、という想いを皆で共有しています。

古庄:うーん。理想的なチームですね。

萩谷さん:はい。メンバー間で意見をフラットに交わせる関係でもあります。
それぞれ得意とするテイストが違ったり、あとは千手観音のように幅広いテイストを表現できる絵描きのプロもいたりして、かなり個性豊かなメンバー揃いです。
みんなちょっとずつ違うからこそ、お互いに尊敬でき、良い意味で刺激しあっていると思います。自分の居場所だなと感じることのできるチームですね!

古庄:お話を伺っていて、チームへの信頼感と愛情をとても感じました。ありがとうございました。

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今回は、配属が決まってから、OJTの期間、1人のデザイナーとして仕事をするまでを伺いました。中編もかなり、ボリュームがある内容でした…!
就職活動中も、入社後も多忙な中でも、周囲に流されることなく、常に自分のしたいことは何かを考え続け、主体的に行動した結果、道が拓けていったのですね。

次回後編(記事はコチラ)は、より細かくデザインを作るまでの工程についてお話を伺います。また、学生の方へのアドバイスもいただく予定です。
お楽しみに!

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